厨房実験室
/ 厨房の実験室
設立.2018 / 東京・墨田区 / 14名のマスター
chloroplasttung.comの厨房は、二〇一八年に東京・墨田区の京橋ラボで小さな実験として始まりました。フラスコと温度計と六席のテーブル、そして「食べることの、もう一つの側面を見せたい」という池田賢一の強い意志だけがあったのです。
七年間の軌跡 /
ラボでの七年間
二〇一八年三月のことでした。池田賢一は、フランスの三ツ星レストランで十二年間修業したあと、故郷の東京に戻り、小さな一角を借りて実験を始めました。最初のレシピは「ほうれん草の低温球状化」一本。資金は限られ、機器は研究室の中古品ばかり。それでも、三席のテーブルで毎週末だけゲストを迎え、試作と試食を繰り返しました。
chloroplasttung.comは、当初は分子料理レストランとしてスタートしましたが、二年目あたりから「テイスティングメモに実験データを添付する」というスタイルに切り替えました。それが、今日のラボカードの原型です。皿の色、温度、pH、糖度、酸度——すべての数値を、ゲストにそのまま渡してしまう。
七年間で、合計一二四八回のテイスティングセッションを開催しました。レシピは三八品を超え、十四名のマスターと三十八の生産者がネットワークに加わっています。現在の十四席は、創業時の三席から始まって、四回の増席を経て、今の形になりました。
私たちの実験台には、毎週のように新しいレシピがやってきます。失敗したレシピは、すべて「ラボ日誌」として記録され、次の季節のヒントになります。テスターは毎回四名。池田を含む二名に加えて、外部の食文化評論家と料理研究家が加わります。
chloroplasttung.comが特に重視しているのは「再現性」です。同じレシピを別の日に作っても、同じ温度、同じpH、同じ時間で提供されること。そのために、すべての工程は数値化され、自動化されています。低温調理の温度、球状化の粘度、発酵のpH推移——すべてがログに残ります。
日本の伝統的な発酵文化と、西欧の分子ガストロノミーを融合させたアプローチは、私たちの独自性です。味噌、醤油、酢、納豆、麹——これらの発酵食材を、分子レベルで再解釈すること。それが、chloroplasttung.comの使命だと考えています。
哲学 /
ラボの哲学
chloroplasttung.comでは、料理を作ることを「設計する」という言葉で表現しています。温度、pH、時間、濃度、粘度——これらの変数を、毎回ゼロから組み立て直すのです。同じレシピは二度と作りません。毎回が実験です。
データを開示することは、リスクを伴います。失敗も見える化される。しかし、私たちはそれを「誠実さ」と呼んでいます。ゲストがデータを見ながら、自分の舌で再評価する。その行為そのものが、chloroplasttung.comのテイスティングです。
十四席という規模は、意図的に選びました。すべてのゲストの顔を覚えて、提供直前に最後の調整ができる距離。それが、chloroplasttung.comのラボが提供できるサービスの限界であり、良さでもあります。
料理は設計である
哲学.02
データは開示する
哲学.03
失敗も記録する
哲学.04
規模より距離を優先